室町の工人達によって拓かれた幽玄の世界

– ご挨拶 –

 我が国が世界に誇ることができる芸術は、何といっても歌舞伎、浮世絵そして能の3部門です。私がその3部門の内の一つ、能に用いられる能面を打ち始めてから約三十年。実は未だに満足の行く作品が殆んどないといった方がよいかも知れません。
 単なる仮面と思いきやその表情の難しさは例えようもありません。ただ単にきれいにできているだけでなく、刻々と変化してゆく感情の起伏をも表現しなければならないからです。

 能・狂言のルーツを辿れば、古代の中国(唐)に遡ります。幾多の歴史的な紆余曲折を経て、現在見られる能の形に発展させたのが観阿弥、世阿弥父子と言われています。その流派、観世の後、金春、宝生、金剛、喜多等の各流派が派生し、全国各地の能舞台を賑わして行きます。それに用いられる仮面も能と共に室町に至り完成をみるのですが、能そのものがその後江戸時代の武家社会においては、それをたしなむ大名たちにより相互行われる式学となったため、いつのまにか庶民からかけはなれていったようです。今私達数少ない面打ちが室町の立派な工人達の後を追いその古面を写すことにより、その復活を試みているわけです。

 今般私が学んだ能面の一端を文明の利器、インターネットを通して発表させて頂く機会を得ましたことを大変嬉しく思います。

                                   瀧田琇水